お客様は一生覚えている|金融機関18年で学んだ接客の本質4話
お客様は一生覚えている|金融機関18年で学んだ接客の本質4話
接客の仕事をしていて、自分が対応したお客様の顔を、どこまで覚えていますか。
結論から言います。
お客様は、皆さんが思っている以上に、皆さんのことを覚えています。
そして接客する側は、ほとんど覚えていません。
この非対称に気づけるかどうかで、接客の質は大きく変わります。
私は信用金庫で3年、皆さんの地域にあるような郵便局の窓口で15年、合計18年、金融機関でお客様対応をしてきました。
40歳でセミリタイアした今、振り返ると、机上のマニュアルより現場のエピソードのほうが、よほど接客の本質を教えてくれたと感じます。
今日は完全に雑談回です。
会社員時代の接客エピソードを4つ、お話しします。
クスッと笑ってもらいつつ、最後に接客業すべてに共通する本質を1つだけ持ち帰ってください。
「今からお前を怒るからな」──クレーム収拾の職人芸
信金時代の話です。
ある店を営むお客様がいました。
担当者が必ず泣かされると言われるほどの、有名な強面のお客様です。
なぜか新人の私が担当になりました。
ある日、入金金額の打ち間違いがあり、訂正のお願いに謝りに行きました。
玄関で「大変申し訳ございません」と頭を下げた瞬間、「帰れ」。
取りつく島もありません。
帰れと言われれば帰るしかないので、いったん店に戻り、上司と一緒に出直すことになりました。
同行してくれたのは、外回りの上司ではなく、窓口の処理を最終チェックする、預金担当の大先輩でした。
ここで小さな豆知識を1つ。
銀行は、担当者の処理を何人もが順番にチェックしてからお客様に返すので、時間がかかる代わりにミスが少ない仕組みです。
一方の郵便局は、基本的に目の前の担当者がその場で完結させるので、早い代わりにミスの多さは人によります。
「郵便局は早いからいい」と一概には言えない、というのが中の人の実感です。
窓口に行くなら、時間に余裕を持って。
そもそも今は、行かなくても済む手続きがかなり増えていますが。
さて、話を戻します。
ユーモアのある方で、行きの車の中で一言だけ、こう言われました。
「おい、ぱぐお。俺は今から、お前を怒るからな」
それ以上の説明はなし。
怒られるようなことをした自覚もなく、頭の中は疑問符だらけのままお店に到着しました。
ドアを開けて、上司は満面の笑顔でご挨拶。
そして次の瞬間、私のほうにくるっと向き直り、
「お前、何をやったんだ。俺に謝ったって仕方ないだろう。お客様に謝れ」と、
ものすごい剣幕で叱り始めたんです。
私は本気で驚いて、あらためてお客様に深く謝りました。
すると、どうなったか。
もともと怒っていたお客様が、
「まあまあ、あんたがそこまで怒ってくれたんなら、もういいよ。お茶でも飲んでいきなさい」と収めてくれたんです。
帰りの車で、上司の第一声は「ごめんね」でした。
続けて、こう言われました。
「収拾がつかんから、俺がめちゃくちゃ怒れば、それ以上は誰も怒れんじゃん」。
怒りの場に、それを上回る味方の怒りをかぶせて、相手の怒りの行き場をなくす。
経験に裏打ちされた職人芸です。
真似できるかは別として、「こんな上司になりたい」と思った原体験でした。
転勤2ヶ月後の電話──「挨拶がない」と怒ったお客様
次は郵便局時代です。
私は転勤が多く、ある局に移って2〜3ヶ月ほど経った頃、前にいた局から電話がかかってきました。
「ぱぐおさん、お客様が怒ってます」。
何があったのか聞くと、前の局で保険に入ってくださった女性のお客様が、「転勤の挨拶がなかった」と怒っていた、というのです。
当時の私は、保険という商品が本気でお客様のためになると信じ切っていました。
今なら手数料の高い商品ばかりだったと分かりますが、当時はその構造に気づいていません。
世間話の流れで「じゃあ入るわ」とすっと契約してくださった方で、正直に言うと、私はそのお客様の顔を、ぼんやりとしか思い出せませんでした。
郵便局員は通常、窓口のお客様一人ひとりに転勤の挨拶まではしません。
よくしてくださった方には手紙を書いたりもしていましたが、全員には届きません。
それでも、お客様のほうは覚えていたんです。
担当した局員が、いつの間にかいなくなったことを。
このとき肝に銘じたのが、冒頭の結論です。
お客様は、接客した人間を驚くほど覚えている。
接客する側は、覚えていない。
自分がお客の立場のときを思い出してください。
店員さんの対応、意外と覚えていますよね。
つまり、皆さんも誰かに覚えられています。
覚えられている前提で、一人ひとりの話をちゃんと聞く。
それが、いい営業マンに共通する姿勢だと思います。
「もう優しくしないで」──傘とタオルと、養子のお誘い
3つ目は笑い話です。
私は郵便局時代、カウンターから出て、お客様の横に座って話すタイプの局員でした。
あまりいないと思います。
距離が近い分、ありがたいお誘いもいただきました。
養子に来ないか、婿養子はどうだ、最後には土地をもらってくれないか、まで。
全部お断りしましたが。
その養子のお誘いを毎回くださっていたお客様との、最後の日のことです。
転勤の報告をして、お帰りになるタイミングで、急に雨が降ってきました。
傘をお持ちでなかったので、局の予備のビニール傘と、試供品のタオルを持って駆け寄り、「帰りに使ってください。濡れたらこれで拭いてくださいね」とお渡ししようとしました。
するとお客様は、傘もタオルも受け取らず、雨の中を走り出したんです。
途中でぴたっと止まり、こちらを振り向いて、一言。
「もう、優しくしないで」
そのまま小走りで去っていかれました。
私は雨の中、「ありがとうございました」とお見送りするしかありませんでした。
ドラマのような場面ですが、実話です。
後日この話をパートさんにしたら、
「そんなことを言われる郵便局員、私は一人も見たことがない。あなたが初めて」
と真顔で言われました。
てっきり、みんな養子に誘われているものだと思っていたので、自分の視野の狭さを実感した瞬間でもありました。
「ため息ではございません、吐息でございます」
最後は、中間管理職になってからの話です。
素直で一生懸命な若い女性社員が、明るいお母様と娘様の保険契約を、楽しく対応していました。
私は後ろで入力を引き受けながら、様子を見ていました。
終わりがけ、その社員が疲れからか、ふっと「はぁ」と息をついてしまったんです。
その瞬間、今まで笑っていたお客様の顔色が変わりました。
「ちょっとあなた、今ため息ついたんじゃない?どういうこと?」
これはいかん、と思った瞬間には立ち上がっていました。
小さな局なので、到着まで1〜2秒。
そして開口一番、こう言い切りました。
「◯◯様、本日は誠にありがとうございました。今のは、ため息ではございません。吐息でございます」
お客様は思わず吹き出して、
「そっか、吐息か」。
すかさず続けます。
「今まで楽しくお話ししていたのに、ため息なんかつくわけないじゃないですか。大切なご契約が無事に進んで、ほっとして息が大きく出てしまっただけです」。
場は一気に和み、契約は無事に終わりました。
とっさの一言が場を救うこともある、という話です。
お客様は覚えている──接客業に共通するたった1つの本質
4つのエピソードに共通する本質は、1つだけです。
お客様は覚えている。
だから、相手の立場で考える。
自分がお客の立場だったら、やってほしいこと、やってほしくないことは何か。
これを考え続けるだけで、接客の打率は確実に上がります。
上司の職人芸も、吐息の切り返しも、根っこは同じです。
目の前の相手が今どう感じているかを見て、動く。
それだけです。
これは接客に限った話でもありません。
職場の同僚、家族、パートナー。
相手の立場に自分を置いてから口を開くだけで、人間関係のトラブルの多くは未然に防げます。
技術やトークの型を学ぶ前に、まず立場の入れ替え。
18年の現場で残ったのは、結局この1つでした。
メンタルは相当鍛えられましたが、フルスロットルで働いた会社員時代は、今振り返っても楽しかったです。
あの日々があったから、毎日の配信も続けられています。
皆さんの月曜からの接客が、少しでも軽くなれば嬉しいです。
今日も気をつけて、いってらっしゃい。
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稼ぐちから
※ぱぐおはリベシティ応援会員です。資産形成の原点は両学長(リベラルアーツ大学)の考え方から学びました。
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